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復興レポート

インタビュー | 特集
商店街のココロ粋8「御菓子司 紅久」
2019/10/09

 紅久六代目店主の安田貴志さんは、糸魚川市駅北大火で自宅兼事務所を焼失したにも関わらず、常に前向きで、いといがわバル街の実行委員長としても市のにぎわいに一役買っています。今回は、駅北大火といといがわバル街に馳せる想いを伺いました。


年末の惨事

紅久 代表社員いといがわバル街 実行委員長 安田 貴志(やすだたかし)さん

紅久 代表社員 いといがわバル街 実行委員長 安田 貴志(やすだたかし)さん

 店内に入ると、カステラの生地を焼き上げたカステーラ煎餅「山のほまれ」の甘い香りに包まれます。紅久の代名詞となっている「山のほまれ」の懐かしい味わいと、創業は江戸時代という200年にわたる看板を受け継ぐ安田さん。手土産にも最適で、市内のお土産処でも販売されている「山のほまれ」を焼かない日はほぼない、と誇らしげに話します。
 駅北大火が発生した当日も、いつものように店舗で焼き機の前に立っていると、店内に焦げたような匂いが立ち込めてきました。「最初はスタッフから『煎餅が焦げているのではないか』と疑われましたが、次第に外から『火事だぞ』と騒がしい声が聞こえ始めました」と、出火当時を振り返ります。生まれ育った本町に消防車や救急車のサイレンが鳴り響き、心配になった安田さんは、店舗から50mほど離れた自宅の様子を奥様に見に行ってもらいました。僅かながら自宅にも火の粉が迫っていると聞き、自身も自宅の屋上で消火活動に取り掛かります。自宅から会社関係の資料は持ち出しましたが、被害が拡大した夕方、消防団から避難を促され持ち出すことができたのは、財布と通帳とレンタルしていたDVDのみ。淡い期待を抱いて、消火活動に使ったホースの水は出したまま、奥様の実家に避難しました。駅北大火から2日後に立入規制が解除され、被害状況を見に行くと、店舗は幸い無事でしたが自宅の2階から上半分は燃えて無くなり、1階は水浸し。惨状を見るまでは、被害が少なければ補修して暮らそうという気持ちがあったそうですが、鉄骨造の支柱は曲がり、どうにも住める状態ではありませんでした。


心の再建

大火で焼け落ちてしまった店の看板

大火で焼け落ちてしまった店の看板

 自宅については「保険会社からも『修繕するより、建て直した方が早いですね』なんて言われる始末でした(笑)」と明るく話す安田さんですが、まだ小学生だったお子さんのことを伺うと、少しばかり表情が曇りました。駅北大火直後、自分たちだけではどうすることもできない状況に見切りをつけた安田さんは、早い段階で店舗の再開に気持ちを切り替えることができましたが、子どもたちにとっては自宅が燃えたことに相当傷ついているのではないかと、父親として不安がありました。外に出ると、報道陣にマイクやカメラを向けられることもしばしば。「心が癒えないうちは、外に出さないようにしていた時期もありましたが、今となってはいい経験になったのでは」と、振り返ります。被災したことで、「息子が所属するサッカーチームのメンバーが、子ども用の衣類や道具を山ほど持ってきてくれたり、市の職員も燃えてしまった教科書や体操着などを始業式までに手配してくれたり。人生の中で一番人に感謝し、力をもらった」と、胸中を打ち明けてくれました。
 周りの人が、良い方向へ向かうようにと手を差し伸べてくれたおかげで、安田さんも店舗の営業再開に集中することができました。まずは滞っていた各お土産処への納品分を製造。店舗での販売分を確保し、営業できるようになったのは駅北大火から9日後の大晦日のことでした。どうにか年内の営業再開に漕ぎつけたことで、新年は新しい気持ちでスタートできるという安堵の思いが胸に広がったといいます。


大火後のバル街

いといがわバル街 実行委員の皆さん

いといがわバル街 実行委員の皆さん

 2015年から始まった「いといがわバル街」、通称バルの実行委員長も務める安田さん。バル街の発祥は函館で、県内でも長岡や新潟、上越などが開催し、各地で盛り上がりを見せていました。市内の飲食店や旅館・ホテルなどの有志によって組織する実行委員のほとんどは安田さんと同世代で「自分たちが20代の頃、成人式の日なんて駅前の飲食店は入れないほど!」と、かつての糸魚川のにぎわいを知っている人たちの集まりです。もちろん、全員お酒好き。第4回を迎えようとしていた矢先に駅北大火が発生し、忘年会や新年会の予約はキャンセル。市内は自粛ムードに包まれ、お酒好きの実行委員も傷心にかられ飲みに出歩けなくなったといいます。安田さんは、そんな雰囲気を一変すべく、これまで年に2回だった開催をその年は3回にすることを提案。県内を始め函館や弘前のバル街実行委員会からも義援金が届き、その支援に応えるためにも、自分たちが楽しんで継続していかなければならないと確信しました。第5回、第6回のバル街では、義援金を基に被災者を招待。駅北大火で客足が鈍っていた飲食店にとっても、転機を迎えることができた回となりました。


年に2回の特別な日

 バルの参加者も回を増すごとに増え続け、前回の第9回で800人を超えたことに安田さんも驚きをかくせませんでした。バルの前身である「春・はしご酒」を開催した時のお客さんは100人程度。「いといがわバル街」の名が市民に定着してきたことと、年に2回のバルの日を一緒に盛り上げようと協力してくれる団体や企業が増えたことにも感謝を述べていました。「新しい協力者に好きなことをしてもらうと、また新しい輪が広がっていくんだよ」と、嬉しそうに話す安田さん。また、いといがわバル街には、実行委員会に属していなくても、当日快くお手伝いをしてくれる“サポーター”という心強い存在がいます。出店もお手伝いも基本的に楽しんでやってもらうことを一番としているため、無理に強要することもありません。
 来月2日(土)に節目の第10回を迎えるいといがわバル街。「出店者にとっても、忙しいけど楽しい日だねって言ってもらえたら嬉しい」と、まちのにぎわいのために精力的に活動する安田さんでした。

 


Information

いといがわバル街 Vol.10
11月2日(土) 12:00~24:00
10/18(金)よりチケット販売開始
●前売りチケット(5枚綴り) 4,000円(税込)
●当日チケット(5枚綴り) 4,500円(税込)
チケット販売所、参加店の情報はHPにてご確認ください。
ホームページ

バル街って何?
バル街とは、5枚綴りの前売りチケット、または当日チケットを購入し、市内の参加飲食店を、食べ歩き、飲み歩きしてもらうイベント。チケット1枚につき、ドリンクとその店オリジナルのピンチョス(おつまみ)のおもてなしが受けられます。新たなお店や街の魅力を発見できるのも嬉しいポイント!店主や参加者同士で気軽にコミュニケーションをとれるのもイベントの醍醐味です。お酒が飲めない人でも楽しめる内容になっていますので、みんなで盛り上がって楽しい一日にしましょう!



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