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復興レポート

インタビュー | 特集
キーパーソン・インタビュー1「東京理科大学研究推進機構総合研究院 教授 関澤 愛氏」
2021/11/17

 駅北大火から5年。糸魚川市の復旧・復興にご尽力いただいた方々から、「災害に強いまち」「にぎわいのあるまち」「住み続けられるまち」づくりに係る活動のあゆみと想いを伺います。

 今回は、防災の専門家として、糸魚川市の防災まちづくりへの取組に携わっていただいている関澤先生にお話を伺います。


プロフィール
東京理科大学研究推進機構総合研究院 教授 関澤 愛(せきざわ あい)氏

東京理科大学研究推進機構総合研究院 教授 関澤 愛(せきざわ あい)氏

1974年、京都大学大学院建築学研究科の修士課程を修了後、1976年同大学院博士課程在学中に、自治省(現在の総務省)消防庁消防研究所に入所。その後数々の職歴を経て、2010年より東京理科大学の大学院国際火災科学研究科教授に就任。現在は同大学総合研究院教授。また、日本火災学会会長、国際火災安全科学学会の副会長を歴任し、消防庁の消防審議会専門委員、東京消防庁の住宅防火対策推進協議会委員など、国や自治体の様々な委員会の役職や委員を務めている。NPO法人日本防火技術者協会理事。

・住まいと暮らしの安全(理工図書/1996年)
・それでも「木密」に住み続けたい!(彰国社/2009)
・安全基準はどのようにできてきたか(東京大学出版会/2017)


防災の専門家としてやりがいを感じている

関澤先生が「防災まちづくり」をテーマに講師を務めた講演会の様子(2018.10.17/市民会館)

関澤先生が「防災まちづくり」をテーマに講師を務めた講演会の様子(2018.10.17/市民会館)

 長年、住宅防火や都市防災に関する研究・教育に従事しながら、木造密集市街地の防災まちづくりの活動に取り組む関澤先生。昭和51年に山形県酒田市で発生した酒田大火以来の大規模な市街地火災となった、当市の駅北大火の発生をきっかけに、消防庁の「糸魚川市大規模火災を踏まえた今後の消防のあり方に関する検討会(2017年)」や、「駅北復興まちづくり計画検討委員会(2017年)」、そして計画の進捗状況を評価する「駅北復興まちづくり計画評価委員会(2018~2020年)」といった、数多くの組織に参画していただきました。さらには被災地との関わりだけでなく、市内に現存する木造住宅密集地区を対象とした防災対策事業(2018年~)にもアドバイザーとして参加。専門家と地域住民が一緒にまち歩きやワークショップを行うことで、地域の課題が明白になり、防災意識の向上につながっています。
 住宅防火の第一人者として全国で教えを説いてきた関澤先生も、「ひとつの地域に5年間関わり続けるというのはあまりない経験。防災の専門家として参加させてもらえることにやりがいを感じている」と、活動を振り返ります。


原因と対策

防災対策事業のワークショップで消防機材を点検する能生小泊地区の様子

防災対策事業のワークショップで消防機材を点検する能生小泊地区の様子

 駅北大火が大規模火災となった原因は、間口が狭くて奥行きが長い町屋造りの木造家屋が密集していたことや、地形や気象による強風、消火活動が長時間にわたり消防水利が不足したことなど、いくつかの不利な状況が重なってしまったことにあります。その中でも「最大の要因は、出火から数時間で飛び火によって同時多発的に延焼が拡大してしまい、消防隊が対処できなくなったこと」と、見解を示す関澤先生。「駅北地区のような条件は全国どこにでもある。だからこそ、復興計画や対策を徹底することで全国の防災モデルになるのではないかと考える」。
 実際に駅北復興まちづくり計画検討委員会の中では、防災設備に関しては思い切った提案をしようと心掛けていた関澤先生。①100t、200t規模の貯水型防火水槽の設置②海水や奴奈川用水といった自然水利からの長距離中継送水システム(水が尽きることがない防火水槽)の設置など、具体的な案を市に提言していただき、実現しました。
 さらには防災対策事業でも、初期消火の大切さと地域の高齢化に目を向ける関澤先生の提案により、市内に1,200箇所ある屋外消火栓のうち、400箇所の65ミリホースを40ミリホースに置き換えました。配備後には、自治会などが主体となって消火訓練を実施し、女性や高齢の方でも扱いやすいことを体験してもらい、いざという時の消防力の強化を図っています。


大火の教訓の継承

地区の防災上の課題を検証して配備した40ミリホース(能生小泊地区)

地区の防災上の課題を検証して配備した40ミリホース(能生小泊地区)

 関澤先生に大火を風化させないための心得を伺うと、「大火の教訓を小・中学校の学校教育で継承していくこと」と、答えます。子どもの時にしっかりと学んだことは、大人になっても覚えていることが多く、大火の教訓を継承していくことで、その子どもが親になった時、さらにその次の世代へと防災教育をするということもあり得るそう。また、「いくら40ミリホースを配備しても、使えないと意味がない。地域住民が40ミリホースを使った初期消火訓練などを地区の一つの行事として、定期的に実施することで、大きな意味を持つようになる」と言います。
 そして、関澤先生が駅北大火で新たに継承していかなければならないと重要視したのが、『飛び火警戒』です。飛び火警戒とは、火災が発生した時に飛び火している箇所を早期発見・消火するために、消防団や近隣住民が屋根などから煙の上がっている家屋を見極め、消防隊に伝えること。昔は、飛び火警戒という言葉も一般的に周知されていて、行われてきたそうですが、「長らく火災が発生していない地域では継承されてこなかったのだろう」と話す関澤先生。当市のような小規模消防の場合は、近隣住民で協力してすばやく新たな出火点を見つけ出し、1件でも2件でも火災件数を減らすことが延焼拡大防止につながります。
 また、地震などの災害により広範囲で同時多発火災が発生してしまうと、大規模消防を持つ都市でも消火活動が困難になります。「延焼範囲から100m程度の距離があれば、普通の体力のある人なら危険が迫ってもすぐに待避できる。全員避難して地域を空っぽにするのではなく、何人かは残って飛び火警戒をすることが重要。『飛び火警戒』という言葉と、どうすればいいのかということは、皆さんに知っておいてもらいたい」と、注意を促します。


全国のモデルとなれるように

「まちを火災から守る持続的な自主防災」と題した講演会の様子(2020.10.3/京ケ峰地区)

「まちを火災から守る持続的な自主防災」と題した講演会の様子(2020.10.3/京ケ峰地区)

 5年間、横町や能生小泊、田海地区などにおける防災対策事業のワークショップなどを通して、当市の防災のあゆみを見守り続けてくれている関澤先生。「40ミリホースの整備や防災対策事業の取組に関して、市全域で進めようと決断された市長を始め、糸魚川市の皆さんはとても積極的で、大規模地震を警戒する首都圏などと同様に意識レベルが高く、非常に熱心」と当市の印象を語ります。消防団に所属している市の職員が多いことや、市民が地域の課題に問題意識を持って意見ができることは非常に有益で、市への要求につなげやすくなっているそう。続けて、「今の糸魚川市における防災への取組は全国的に見てもトップランナー。様々な地域で糸魚川市の取組を紹介しているので、住民一人ひとりが火災の危険性や防災について理解を深め、全国のモデルとなれるように引き続き頑張ってもらいたい」と期待します。


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