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復興レポート

インタビュー | 特集
大火のカタリベ7「山呉」
2020/09/09

 山岸呉服店は、1870(明治3)年の創業当時から本町通りに看板を掲げる老舗店です。駅北大火で店舗が焼け落ちることはなかったものの、一部が類焼。ご自身のお店とともに商店街の復興に尽力してきた6代目社長 山岸さんにお話を伺いました。


まさかの連続

株式会社 山呉 代表取締役 山岸 美隆(やまぎし よしたか)さん

株式会社 山呉 代表取締役 山岸 美隆(やまぎし よしたか)さん

 昨年、創業150周年を迎え、時代に合わせた変化を遂げながら、たくさんの地元の方に愛され続けてきた同店。呉服の販売のみならず、洋服やアクセサリー、オリジナル化粧品の販売など、様々な展開を見せています。毎年年末は成人式用の振袖展示会を開催する書き入れ時。2016年の年末も案内状を出し、商品も揃え、あとは当日を迎えるだけとなっていた展示会前日に、駅北大火が発生しました。
 近隣での出火を知り、出火場所付近で様子を伺っていた山岸さん。風向きが変わり、自店のある本町通り沿いの家屋に飛び火したことを知りました。山岸さんは最悪の事態に備え、お客様からお預かりしている仕立て品などを車に積み替えておくよう店舗のスタッフに指示。一方、自身は現場に残り、飛び火した家屋の隣にある酒店の家財を運び出したり、近隣設備会社が所持していたポンプ車で消火活動を手伝ったりしていました。時間の限り、最善を尽くしましたが、正午過ぎには避難勧告が発令。衰えを見せない炎と煙を規制線の外から見つめることしかできませんでした。16時ごろ、ついに自店の屋根からも白煙が出始め、半ば諦めかけていましたが、応援隊の長岡市消防本部が1階の入り口ドアを破り、屋内から消火活動を行ってくれていたおかげで、建物の類焼は一部で留まりました。山岸さんは、「渦中で、お客様のものを持ち出す判断ができたのは良かった。あっという間の出来事だった」と振り返ります。大火発生から2日後、立ち入り規制が解除され、中に入ってみると、もちろん店舗は水浸し。着物などの商品も匂いが付いてしまって売り物にならなくなってしまいました。火災保険はかけていましたが、臭いは補償の対象にならず、被害総額はおよそ1億円にも及ぶほどの大打撃でした。


気持ちの切り替え

色とりどりの着物が揃う店内

色とりどりの着物が揃う店内

 山岸さんが最も気掛かりだったのは、予定していた振袖展示会でした。「火災が発生し、店舗での接客が難しいという状況は皆さん理解してくれると思うけれど、案内状を出した以上は、どうにか新成人に振袖を届けたいという気持ちが強かった」と話します。出火翌日には駅前の空き店舗で振袖だけでも展示できるように準備を開始。お店に並べていた商品は、売り物にならなくなってしまったので、取引していた上越市と京都府の問屋さんに相談すると、快く品物を貸してもらうことができました。一週間ほどで準備を済ませ、1月2日から展示会を開催。仮店舗での営業期間中、顧客から、「ここが無くなったら、どこに行っていいか分からない」という声を聞いた山岸さんは、「大火を経験したからこそ今までの歴史や価値を知ることができて嬉しかった」と笑顔を見せます。
 創業150年と歴史が深いだけに今までも様々な困難を受けてきた山岸呉服店。昭和7年の大火では店舗が全焼し、日中戦争が勃発していた昭和15年には物資の統制により贅沢品の製造・販売が禁止され、同店も閉店に追い込まれました。そして、戦後の昭和21年には新円切り替え(デノミネーション)による預金封鎖、22年から25年には農地解放、とインフレ対策が立て続けに発表され、財産のほとんどを失った時期もありました。山岸さんは、「先代たちが乗り越えてきた困難に比べたら、150年続いた歴史を自分の代で終わらせられない」と、6代目として自身を奮い立たせ、気持ちを切り替えました。
 類焼してしまった店舗も、いち早く再開するため仮店舗での営業と同時進行で改修を進めました。被災した箇所が2階だったこともあり、翌月の2月3日には1階部分で営業を再開。リニューアルオープンセールも行い、市内のお得意様と直接顔を合わせ、感謝を伝えることができました。

煙が迫りくる大火当日の山岸呉服店

煙が迫りくる大火当日の山岸呉服店

駅北大火翌日(2016年12月23日)と現在(2020年8月)の本町通り<赤枠内が山岸呉服店>

駅北大火翌日(2016年12月23日)と現在(2020年8月)の本町通り<赤枠内が山岸呉服店>


委員会に参加して

第5回駅北復興まちづくり計画検討委員会にて(マイクを持っているのが山岸さん)

第5回駅北復興まちづくり計画検討委員会にて(マイクを持っているのが山岸さん)

 大火から3か月後、市は「駅北復興まちづくり計画」の策定にあたり、有識者や市内関係団体から専門的かつ幅広い観点から計画をとりまとめるために、駅北復興まちづくり計画検討委員会を設置しました。山岸さんも委員の一人。商工会議所の副会頭(現在は参与)であり、本町通り商店街に店を構える事業所として、また被災者の一人として、様々な目線から、同委員会での検討に加わりました。「人口が減少している地方でのにぎわいづくりというのはただでさえ困難であり、そこにさらに『復興』が加わる未来は誰も予想できない。『こうしたほうがいい』などといった意見は行政を含め、誰もが断言できるものではないので、頭を悩ませた」と、振り返ります。「しかし、策定した以上はスピード感をもって実行していかないと、いずれまた次の災害が来てしまう可能性がある」と続け、難しい状況下でも常に先を見つめることの大切さを示唆します。


観光でにぎわいづくり

 山岸呉服店は、外国人観光客に和服でまち歩きを体験してもらうといった、古き良き商店街のまちなみを活かした観光業にも一役買っています。食の観光要素として「山からの上質な水で育った魚は他の観光都市にも勝っている。近隣他県からの観光客も呼びやすいし、旬を安く提供し、喜んでいただくことはこの地域の使命」と語ってくれました。「糸魚川にしかないもの」「今あるもの」を売りにして、能生・糸魚川・青海の3つの地域で高め合いながら魅力的なまちになってほしいと考えています。
 最後に「今の人が手を抜いたら、次の人にバトンを渡せない」と言い切り、同世代を鼓舞しつつ、後継者である若い世代への期待を膨らませていました。


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Information

株式会社 山呉
糸魚川市大町2-1-14
TEL.025-552-0010
営業時間 9:30~18:00
定休日 火・水曜日