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復興レポート

インタビュー | 特集
大火のカタリベ6「秋山塾」
2020/07/08

 3年半前、秋山塾は受験シーズン真っ只中に発生した糸魚川市駅北大火で、新設したばかりの糸魚川校を焼失してしまいました。今回は、大火をきっかけに糸魚川への想いが強まったという塾長秋山さんが抱く塾講師としての想いを伺いました。


“万が一”は、起こりうる

秋山塾 塾長 秋山 泰宏(あきやま やすひろ) さん

秋山塾 塾長 秋山 泰宏(あきやま やすひろ) さん

 秋山塾の出発点は、当時23歳の秋山さんが自宅の敷地内で始めた青海校。2016年の駅北大火発生当時は、口コミや紹介で増えてきた生徒により良い環境で学んでもらうため、同年9月、学生が多く利用する糸魚川駅近くの空き店舗で2校目となる糸魚川校を開校したばかりでした。開校して3か月、受験も教室もこれからという時期に駅北大火が発生してしまいました。
 出火時、糸魚川校の2階で、生徒に宛てた年賀状を書いていた秋山さん。出火を知り、万が一を考え、生徒に関する情報や機械類は、事前に持ち出していました。糸魚川校は休校とし、青海校へ出勤しましたが、心は休まらず休憩時間ごとに被災状況を確認。その日最後の授業が終わった22時頃、知り合いからのメールで糸魚川校に火が移ったことを知りました。「これからどうしていこうか」、一度は頭を悩ませましたが、全国の受験生は志望校合格に向けてラストスパートをかける12月末。冷静になって子どもたちのことを第一に考えると、「教室は再開すべき」と意志を固めました。


学びを止めない

 出火翌日、急いで現在の校舎となっているビルの2階を契約し、「机と椅子があれば勉強はできるから」と、塾が休みだった3日間で準備を済ませ、翌月曜日からは通常通りの授業を再開しました。
 秋山塾は、個人の学力と目標に合わせた指導ができるようスタッフ1人に生徒は4人までとしています。生徒一人ひとりとのコミュニケーションをしっかりとることができるのも個別指導塾ならでは。被災直後は、慣れない環境や被災の大きさに子どもたちの顔からも緊張感を感じ取っていた秋山さん。「普段以上に勉強以外のことも会話に取り入れ、不安要素を取り除くことを意識していました」と、振り返ります。1か月後には中高一貫校の受験が迫っていたため、生徒と同じように不安を抱えていた保護者の方から「早い決断と対応には大変助かった」と、感謝の声をいただいたそうです。


家族の次の存在を目指して

教室で受け継がれる赤本と参考書の数々。

教室で受け継がれる赤本と参考書の数々。

 今年は新型コロナウイルス感染症拡大防止の為に発令された全国一斉臨時休校の要請を受け、秋山塾も3月中の休校を余儀なくされました。駅北大火発生時は、子どもたちの学びを止めずに励んできましたが、今回ばかりは、生徒とスタッフ、そしてその家族のことを想うと、一番大切なのは命だと痛感しました。緊急事態宣言が延長され、5月からはオンライン学習会という独自のスタイルで、授業を再開。そこには、「力になれることがあれば」との想いから、塾の卒業生もスタッフとして画面越しに参加する姿がありました。秋山さんは、卒業後でもこうして協力してもらえる有難さを噛みしめ、「いつか、卒業生と一緒にお酒を飲むことが密かな夢なんです」と、微笑みます。
 開校8年、生徒に真摯に向き合い続けた結果、現在では青海校と糸魚川校以外にも市外に3校の教室を持ち、生徒数も300人を超えました。生徒数の増加に伴いスカウトしたスタッフについては、「全員、私が自信をもって生徒の前に立たせてあげられる人」と、言い切る秋山さん。自身も教育者として、「生徒に少しでも素敵な人生を歩んでもらいたいという気持ちを忘れず、家族の次に頼れる存在になれたら」と話します。駅北大火や全国一斉臨時休校など、避けることのできない壁を乗り越えてきた子どもたち。ふるさと糸魚川から大きく羽ばたいていく姿が楽しみです。


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