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復興レポート

インタビュー | 特集
縁の下のチカラ持ち2「駅北復興住宅建設計画」
2019/04/10

 糸魚川もようやく春めいた陽気になり、被災地に待望の駅北復興住宅が完成しました。18世帯の入居者がここから新生活を始めます。今回は駅北復興住宅に携わった、一級建築士の八木さんと糸魚川市建設課の縄さんにお話を伺いました。


復興への足掛かりとして

株式会社スタジオ・クハラ・ヤギ(東京都) 一級建築士 八木 敦司さん

株式会社スタジオ・クハラ・ヤギ(東京都)
一級建築士 八木 敦司(やぎ あつし)さん

 大火後に掲げられた「糸魚川市駅北復興まちづくり計画」のひとつに「暮らしを支えるまちづくりプロジェクト」があります。その中で、「医療、福祉や子育てサービスと連携した市営住宅の整備」として、平成29年度から駅北復興住宅の建設計画が始まりました。仮設住宅で暮らす被災者の方に少しでも早く安心した暮らしを提供できるよう、実質的な設計期間は、わずか3か月。復興のシンボルとしての建物でもあり、過去の実績や能力・意欲を見極められるプロポーザル方式で設計業者の公募を行いました。設計の八木さんは、プロポーザルに参加した時の心境について「公共施設の案件は、地域の皆さんの意見を聞きながら設計期間に1年かけることも多いのですが、今回は実質3か月ということで、手を挙げるのも勇気がいる案件でしたね(笑)」と、振り返ります。それでも参加を決めたのは、過去に東日本大震災の復興プロジェクトに携り、福島県の矢吹町で被災された方の公営住宅を手掛けた経験からでした。「建築家としてまちの再生に関わる機会をいただけるのは幸せなこと。またこのようなプロジェクトがあれば、すぐに手を挙げてみたいと思っていました」と、復興に対する思い入れがあったことを語ってくれました。


景観・地球・未来のため

糸魚川市 産業部 建設課 建築住宅係 縄 英明さん

糸魚川市 産業部 建設課 建築住宅係
縄 英明(なわ ひであき)さん
※建設課には3/31まで、4月に異動。

 市が駅北復興住宅の設計のテーマとして挙げたのは、景観不燃化ガイドラインや、復興まちづくり計画の三つの方針(①災害に強いまち②にぎわいのあるまち③住み続けられるまち)に準じていることで、仕様や建材についての細かい指定は設けていませんでした。大火の被災地であることや設計期間が短いということから、募集をかけた当初、市が想定していたものは、鉄筋コンクリート造の一般的な集合住宅でした。実際にそのような提案が多かった中、八木さんだけは、あえて木造での設計を提案。所属するスタジオ・クハラ・ヤギは、2000年に建築基準法が改正され、耐火時間さえクリアできれば木造でも大きな建物が造れるようになったことから、仲間たちと2008年にNPO法人「teamTimberize」を立ち上げ、新しい木造建築の普及啓蒙をしてきた実績がありました。「世界全体で見ても、環境への配慮から木造化を推進する流れになってきている。『時代のことを考えて、木造に』『糸魚川産の木材を活かした人に温かい住宅を』というのが、最大のコンセプトでした」と語る八木さん。熱いプレゼンに引き込まれたという縄さんは、「不燃化だけならコンクリート造の建物を選んだかもしれませんが、景観にも配慮し、糸魚川産の杉を使うことも提案していただいて、防災と景観を兼ね備えたハイブリッド住宅だと思いました」と、想像を上回る提案にただただ脱帽したそうです。


守るべき糸魚川らしさ

取材中も終始仲のいい掛け合いを見せてくれた二人

南側(向かって左)の雁木は従来通り雪除けや雨除けとして。
東側の雁木は景色を眺めるデッキとしても使えるよう、現代風にアレンジ。

 八木さんは駅北復興住宅を設計するにあたり、デザインのモチーフとして小路や雁木といった糸魚川らしい街並みや歴史を建築物に落とし込んでいきました。例えば、周辺に一戸建てが連なる敷地に市営住宅を大きな一つの棟で配置してしまうと、どうしてもまちから突出してしまいます。そこで建物の内部に大火前の通りをイメージした1本の小路を通し、小さな棟の集合体にすることで近隣の景観にも馴染むようにしました。他にも雁木通りの家の軒先で話す文化があることから着想を得たオープンな造りの玄関など、どこか懐かしさを感じさせる装いに、「糸魚川は都会とは違い、近隣同士の結びつきが固いので、より近いコミュニケーションができるものにしたいと考えていました」と、デザインだけではない狙いを話します。若い方から高齢の方まで広い世代が暮らすことに配慮し、各世帯のキッチンに簡易スプリンクラーを設置するなど防災を意識した工夫も見られ、特に小路に関しては「地域に開かれた住宅となるよう近隣の方からも使っていただき、人と人の交流が生まれてほしい」と、縄さんは語ってくれました。

 


地域から愛される建物に

取材中も終始仲のいい掛け合いを見せてくれた二人

みんなの小路に飾られたワークショップの作品

 3月2日にEKIKITA WORKSと新潟県建築士会糸魚川支部の主催で“木棒(きぼう)アートワークプロジェクト”と題されたワークショップが開かれました。実はこのワークショップは八木さんの提案。復興への願いを込めて糸魚川の海と山をテーマにした絵を木の棒に描こうといった内容でした。八木さんは、「工事段階で地元の人と交流して気持ちを共有していく中で、ワークショップを提案したのは、この施設に愛着をもってもらいたいと思ったからです。」と、糸魚川の“人”に対する想いを語ります。参加者の絵が描かれた木の棒は、現在、大きな一つの作品となって小路の壁面を飾っています。当日ワークショップに参加していた縄さんも「小路に自分が描いた絵が飾られていれば、行ってみようと思うきっかけになる。地域の方が訪れることで“みんなの小路”になるのでいい試みでした」と話し、ワークショップが人の輪を繋ぎ、建物を起点としたまちづくりを後押しするイベントになったことがうかがえました。

 


新たな交流の場

取材中も終始仲のいい掛け合いを見せてくれた二人

駅北地域の今後について語らう二人

 被災された方々のコミュニティの再生を図るために、1階の通り沿いには交流スペースが設けられました。入居者の方だけでなく、だれでも気軽に利用できる共有の場所として考えられています。「使い方は利用者に合わせてどんどん変わっていけばいいと思います。夜、交流スペースに人が集まって外から灯りが見えると、それだけでまちに温かみが出ますよね」と、市民による更なるにぎわいを願う縄さん。
 スタジオ・クハラ・ヤギの八木さんを始め、多くの方の協力があって完成した駅北復興住宅。駅北地域の歴史や地域性を踏まえた、集いの拠点となる開かれた共同住宅です。木造でも火災に強い住宅の新たなモデルとして、地域ぐるみで大事に育てていきましょう。

 


Information

 

株式会社スタジオ・クハラ・ヤギ
大学時代の同期である久原 裕さんと八木 敦司さんで2010年に設立。今回の駅北復興住宅に関しては八木さんがメインとなって設計を進めたが、プレゼンには久原さんも参加し、八木さんとは別の観点から話を広げ、いい掛け合いを見せていた。2人とも「team Timberize」の理事を務め、建築・プロダクト・インテリアなど分野を問わず活動の幅を広げている。

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