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復興レポート

インタビュー | 特集
大火のカタリベ10「杉本 喜代子さん」
2021/06/09

 「おもちゃのおおせ」こと大瀬小間物店は、「布と糸 手作りの店 おおせ」としてリニューアルした矢先に駅北大火が発生。形を変えながらも老舗を受け継ぐ11代目店主、杉本さんにお話を伺いました。


自分らしくいられる場所

布と糸 手作りの店おおせ 店主 杉本 喜代子(すぎもと きよこ)さん

布と糸 手作りの店おおせ 店主 杉本 喜代子(すぎもと きよこ)さん

 「おもちゃのおおせ」と聞くと、プラモデルやゲームの箱が、天井まで高く積み上げられた情景を鮮明に思い出せる人も多いのではないでしょうか。富山県や金沢市から訪れるおもちゃコレクターもいるほど、子どもはもちろん、大人にとっても一瞬で童心に帰ることができる夢のような場所でした。しかし、量販店の出現、インターネットによる通信販売の普及など、時代の移り変わりにより、全国的にも「店舗でおもちゃを買う」という人は激減。「どこかで見切りを付けなければ」と感じていた杉本さんは、2015年におもちゃ屋の看板を下げ、得意なパッチワークやハンドメイド作品の販売に移行しようと決めました。在庫を一掃するために行ったセールはチラシと口コミで広まり、半年かからずに完売。その後、すっきりとした店内で作品作りをしたり、近くに暮らす友人たちとお茶を飲んだりしながら、店番をするのが杉本さんの日課であり、楽しみでした。


不測の事態

 再出発から1年後、駅北大火当日も友人たちと店舗で過ごしていた杉本さん。最初は、まさか出火元から200mも離れている自店が燃えるなど思ってもいなかったため、「近くで火事みたいだね」と話す余裕もありました。しかし、友人たちも帰った正午過ぎ、店舗がある大町2丁目にも避難勧告が発令。女性警察官が誘導に来て「すぐに逃げてください」と指示を受けました。杉本さんは、慌てて大切な書類や判子、財布などを手提げバッグに詰め、駅近くの知り合いのところへ避難しました。「店舗裏の蔵にしまっていた思い出の写真や仏壇までは持ち出せなかったし、レジのお金のことなんてすっかり忘れていて。今思えば、もっと大切なものがあったのにね(笑)」と、冷静になれなかった自身を思い返します。


家族と過ごした駅北地区で

 大火後、しばらくは自宅で過ごしていた杉本さんですが、毎日のように通っていた駅北地区が恋しくなり、本町通りの空き店舗で仮営業を始めます。「学校帰りはこの店で過ごしていた私の子どもたちにとっても、駅北は思い出の場所。家族も賛成してくれたので、商売をやめようとは思いませんでした。」
 そして2019年春、元の場所に戻り営業を再開。今年で3年目を迎え、仕事の合間に市民公園を利用して、お孫さんの世話も楽しんでいます。


心と文化を受け継いで

手作り雑貨が並ぶ店内

手作り雑貨が並ぶ店内

 おおせでは毎年11月頃から、お正月用のまゆ玉飾りの販売が恒例催事となっています。地域ごとに違いはありますが、糸魚川地域では、シデの木にまゆ玉に見立てた最中(もなか)や縁起物の飾りを吊るし、翌年の豊作や商売繁盛を祈ります。現在、材料を揃えられる市内のお店がどんどん辞めてしまい、お客様から「まゆ玉だけはずっと売り続けてね」「また来年も頼むね」と懇願されているそう。「これも店を続ける理由のひとつなんです」と、微笑む杉本さん。
 最後に、今日までお店を続けてこられた秘訣を伺うと、「祖父からも父からも、商売人の心として『あきずに商(あきな)い』という言葉を聞かされていました。諦めないように、飽きないように、辛い時でも我慢してこの言葉を思い出すと、明日もがんばろうって思えるから、それが秘訣なのかな」と、話します。女性らしい柔軟さと、11代続く老舗の後継者らしいたくましさを兼ね備えた杉本さん。どんな時でも前向きな姿は、周りの方にもエネルギーを与えてくれます。


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Information

布と糸 手作りの店 おおせ
糸魚川市大町2-2-24(日本海口から徒歩4分)
定休日 火曜日
営 業 10:00~16:00