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復興レポート

インタビュー | 特集
商店街のココロ粋「江戸前 重寿し」
2018/11/14

 創業から半世紀の歴史を誇る、すし店「江戸前 重寿し」。駅北大火が発生したのは、現在の店主 谷村潔さんが3代目として亡き父から店舗を受け継いだ矢先のことでした。2018年11月から念願の新店舗で営業再開。元の場所で新たな一歩を踏み出した姉弟お二人にお話を伺いました。


この場所でもう一度

重寿し3代目店主 谷村潔さん(左)と、一緒に店を切り盛りする姉の藤野久美子さん(右)

重寿し3代目店主 谷村潔さん(左)と、一緒に店を切り盛りする姉の藤野久美子さん(右)

 大火当日は忘年会シーズン真っただ中で、仕込みの最中「近くで火事だよ」という常連客からの電話で外に出ると、すでに黒い煙が立ち上っていました。一度はすぐ消えるだろうと思って店に戻ったものの、周辺にお年寄りが多いことを心配し、近所の人に声を掛けて避難を促しました。その時のことを「聞いたことのないようなゴーとかバキバキという火事の音が怖かった」と振り返る店主の谷村さん。避難する道中、お客さんと「今日の忘年会大丈夫かね」「また後で電話するね」というやりとりを交わしていた姉の藤野さんは「その時はお店が燃えるなんて思っていなかったから」と苦笑いを浮かべます。父の位牌を手に、一緒に暮らす母と愛猫を連れ、しばらくは少し離れた場所で待機して火災が収まるのを待っていましたが、火の勢いは衰えることはありませんでした。最後には「もう無理かな…」という思いで、建物の隙間から自宅兼店舗の周辺が燃えていく様子をじっと見ていることしかできなかったといいます。全焼した店舗を前に、諦めの感情を抱き、そして落ち込む母の姿を目にしました。「自分たちがずっと一生懸命働いてきた店だからなおさらだよね」と藤野さん。それでも、様変わりしてしまったこの場所を離れるという選択肢は一家にはありませんでした。「生まれ育ったところに帰りたいって思うのは普通のことだと思うよ」。その言葉に、また同じ場所で店をやりたいと前を向く家族の強い絆が伺えました。


仮店舗で過ごす日々

 焼け跡を目の当たりにしながら、大火の翌日からすでに二人の心は仮店舗の営業へと向かっていました。「以前からあそこに空き店舗があることは知っていたので、三日目くらいには下見に行きました」と谷村さん。そこには「このまま何もしなかったらだめになる」という自らを奮い立たせる気持ちと「従業員のためにも早く営業を再開させないと」という確固たる思いがありました。「我ながらよくやったと思う」と謙虚な谷村さんが自画自賛するのは、仮店舗の準備。以前は居酒屋だった空き店舗の床や壁、照明などをリフォームし、食器と厨房設備を一から揃え、奔走した1月。待ってくれているお客さんのためにもなるべく早く営業を再開させたいという二人の熱意が、迷いのない行動につながっていました。大火からわずか1ヶ月という早さで仮店舗での営業を再開した重寿しには「なにか困っていることある?」と気遣う馴染み客のほかに、一見の客も多く来店しました。中には会計時のお釣りを「何かあった時に使って」と置いていく人や、義援金を持ってきた人も。仮店舗では寿司桶を置くスペースにも困り、人が通ると仕事にならなかったほど狭い板場ながら、はしご酒を楽しむイベント“糸魚川 バル街”にも積極的に参加し、バルを楽しむ人を迎えました。「お店に来たことがない人に来てもらうには絶好のチャンスだから」と、バルに参加した理由を話してくれる藤野さん。「仮店舗でもこれまでと同じようにしていただけ」「別に特別な事をしていたわけじゃない」。そう話す谷村さんと藤野さんは、場所が変わってもやることは以前と何一つ変わりませんでした。


新店舗で念願の営業再開

完成した新店舗

完成した新店舗

こだわりのカウンター(左)と宴会もできるお座敷(右)

こだわりのカウンター(左)と宴会もできるお座敷(右) カウンターには数匹の“魚”の姿が隠されているのでぜひ探してみてください。

 11月1日、いよいよ以前と同じ場所で、重寿しの新しい歴史が始まりました。当初から2018年秋には新店舗をオープンさせたいと思い、逆算して建設計画を立てていったといいます。建設中は建築会社と週に1回の定例会議を重ね、ようやくオープンの運びとなった店内は、お客さんへの思いやりであふれていました。この地域はお年寄りが多いからと、カウンターのほかに足を下ろせるよう掘りごたつ式の小上がりをリクエストした1階。2階部分は宴会で使えるよう大人数も十分入れる広さにしました。お客さんが懐かしさを感じる要素も取り入れたいと思い、以前の店舗と同様に座敷に敷いた畳のヘリには魚のデザインが施されたものを使用。仮店舗で苦労した板場は、十分な収納とスペースを確保しました。「寿司屋はカウンターが命」と、新店舗の顔となるカウンターは谷村さん自ら東京まで足を運び、選んだもの。それだけの工夫を凝らした店内を見回し、藤野さんは「予算に限りはあるから、コストカットをどうやってするかって話になって、店を削るより自宅だろうってね」とこともなげに笑います。念願の新店舗での営業再開を喜ぶ姿は、仮店舗で営業を始めた頃と同様、お客様第一の姿勢が垣間見えます。


これからも自然体で

新店舗がオープンし明るい表情の二人

新店舗がオープンし明るい表情の二人

 重寿しの周辺は飲食店が移転し、夜は街灯が少ないさみしい景色となりました。谷村さんは「自分が幼い頃から通ったお店や遊んだ街並みが燃えてなくなっていくことが寂しかった」と胸中を明かします。厳しい現状を受け止めつつ、やめるわけでも変わるわけでもなく、地道にこれまでの重寿しで有り続けようと選んだこれからの道。「いつも通り変わらずやっていくだけです。建物ばっかり立派だねかって言われないように」と笑う谷村さんに「でも絶対言われるよね(笑)」と冗談を返す藤野さん。「もちろん変わらないだけじゃ進展もないから、ロの字商店街をどうしていくかはみんなで話し合って決めていかなきゃいけない」。重寿しがあるから周りに人や店が集まってくる、そんな活性化の一助になればと心を新たにします。50余年家族でつないできた重寿しの看板は、大火に負けることなく、これまでと同じ場所で引き継がれます。再開を待ち望んでいたお客様へのメッセージを伺うと「お待たせして申し訳ございません。やっと開店しました」と表情を緩めた二人。再スタートを切り、新しくなった店舗でお客様を迎え、商売を続けられる喜びを実感しています。

 


Information
新調したのれんと無事に残った湯飲み

(上)新調したのれんでお客様を出迎える (下)10個ほど無事に残った湯飲みも店頭に

11月1日から新店舗で営業開始!

江戸前 重寿し
糸魚川市大町1-3-12
TEL.025-552-0098

■定休日:火曜日
■営業時間:11:30〜22:00

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