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復興レポート

インタビュー | 特集
大火のカタリベ ~長野 隆一さん、斉藤 直文さん~
2018/09/12

 あの日、現場ではどんなことが起きていたのでしょうか。入団して28年、現在1,001人が所属する糸魚川市消防団で団長として組織をまとめる斉藤さんと、防災の要である消防本部を率いる消防署長の長野さんに、駅北大火の現場の様子や防災への取組を伺いました。

火災から「大火」へと変わった瞬間

糸魚川市消防本部 消防署長 長野 隆一(ながの りゅういち)さん

糸魚川市消防本部 消防署長 長野 隆一(ながの りゅういち)さん

 大火が発生した当日、たまたま現場の近くに居合わせたという二人。長野さんは非番で奥さんと外出中、斉藤さんは仕事中の出来事でした。「自分の車に消防団の装備品を積んで、いつでも出動できるようにしているので」という斉藤さんは、20分後には現場に到着。「はじめは147軒も燃えるなんて誰も思っていなかった」と当時の様子を振り返ります。当初は2、3軒で収まるかと思われた規模でしたが、その状況が一変したのは最初の通報から1時間も経たない頃。「旧島道書店で煙が出ているという無線が入ったんです。火元から離れた場所なのに…と嫌な予感がしました」と長野さん。現場に到着している消防署員、消防団員は火が出ている持ち場を離れることはできず、新たな発火を確認できても消火活動を続けながら後続隊が来るのを待つしかありません。その日、12月下旬にも関わらず糸魚川市は最高気温が20.4度まで上昇。乾燥していた空気に強風という、消防に携わる人間であれば「これはまずい」と肌で感じる気候のせいもあって、飛び火によりみるみる火は広がっていきました。懸命に消火活動にあたる最中、二人が現場の全体像を把握できたのは、斉藤さんの奥さんがテレビのニュース映像をタブレット端末に送ってくれた時だといいます。当時副団長(青海方面隊長)だった斉藤さんがその時のことを「目の前の木は見えても、全体の森が見えていなかった」と表現し、悔しそうな表情を浮かべます。空からの映像を見て初めて、煙にのまれる見知ったまちの姿に言葉を失い、火災現場の規模を痛感しました。

未曽有の火災から学んだもの

糸魚川市消防団 団長 斉藤 直文(さいとう なおふみ)さん

糸魚川市消防団 団長 斉藤 直文(さいとう なおふみ)さん

 多くの小規模火災での消火活動では、見える範囲でのやりとりで済むことがほとんどです。しかし大火では数多くの現場が同時に発災しており、対応する消防署員や団員の人数が多いほど情報伝達が困難になることは想像に難くありません。そのような大火の現場で、意外にも役立ったのはメールでした。「モノがあっても“使える”と“できる”は違う。無線は使えたけど、それが業務として現実的に活用できたかっていうとそうじゃないんですよ」。無線を持たないという斉藤さんは、携帯でメールを一斉送信し、消防団の中で被害状況を共有していたそうです。電話がくるとどうしても通話や履歴に意識が向いてしまいますが、メールなら予め保存してあるテンプレートに用件を入力し、連絡先を登録している数十人の団員に「〇〇に行ってほしい」と現場のタイミングで同報し指示を出すことが可能でした。
 長野さんは当時副署長という立場から「大きな枠での役割分担を早く決められたのは大きかった」として、各所の連携の素早さが功を奏したと評します。最初は消防がすべてを担っていましたが、警察は周囲の、自衛隊は現場内の安否確認、そして市役所が避難所などのケアに回ったことにより、消防署員は消火活動に専念できるようになりました。「糸魚川総合病院も、どんな患者が出るか予想もつかないなかで全員の受け入れ体制をとってくれましたし」と病院側の対応にも感謝し、大規模の災害時において迅速な連携がどれほどの効果を生むか、その重要性を再認識させられました。


火事を起こさないために

消防防災フェアの様子

消防防災フェアの様子

 署長として「外へ出た時に地域の皆さんが声をかけてくれる消防署員でありたい」と、消防本部の方向性を打ち出す長野さんは、地域の人とのつながりが災害時に必ず役に立ち、協力体制にも直結すると考えています。木造密集地などへの声かけには団員と署員が一緒になって一軒一軒を回り、地域交流とともに防火を呼び掛けています。
 9月9日には、消防団・消防本部主催で消防防災フェアが開催されました。若い消防団員が企画し、一日消防団長に有名人を起用したりと、まずは「火の用心」という意識を心がけてほしいという思いがこのイベントに込められています。「自分からは絶対に火を出さないというプライドを持ちましょう。それと、消防団の訓練にぜひ地域の人たちも一緒に参加してもらいたい」と斉藤さん。火事が起こった時に一番最初に行動できるのは、その付近に住んでいる人です。早く見つける、早く知らせる、早く消す。まずは火を大きくしないことが大事であり、昭和7年に起きた火災のあと、いつからか薄れてしまっていた「火の用心」の意識を再度持ち続けていくことが、次の大火を防ぐ一歩へとつながります。また、どんなに気をつけていても私たちが人間である以上、自宅が火元となる可能性は誰にでもあります。そこを補ってくれるのが住宅用火災警報器です。今一度きちんと設置されているか確認し、設置率100%を目指して身の回りの備えを万全にしていきましょう。


まちの地域性を活かして

数々の現場を乗り越えてきた二人

数々の現場を乗り越えてきた二人

 長野さんは、消防署長として他地域に講演に赴くこともあり、先日東京に行った際には、平日昼間だったにも関らず市内の多くの企業が消防団員を派遣してくれた、という話に対して「企業からなぜ協力的に支援を得られたのか」と質問を受けたそうです。糸魚川市は人口4万3千人、決して大きな市ではありません。それゆえに、各企業の社長と消防署長が普通に話をすることができる身近さ、地域性があります。わざわざ書面を用意しなくても、一言声を掛けるだけで消防団員を出動させてくれる。そんなところが大都市との差だと長野さんは感じています。斉藤さんも「仕事もある中で『消火活動しろ』と団員に言ってくれた企業があったからこそ、人数が集まった」と深く頷き、二人で感謝の念を持って「企業と地域の皆様には、今後ともよろしくお願いします」と述べていました。
 少しずつ時を重ねるごとに、大火が過去のものになりつつあります。まちを守るということは、市民、自主防災組織、消防団、消防隊、行政、企業、様々な立場の方が協力することによって成り立つものです。自分たちのまちは自分たちで守るという気持ちを持ち、「今日風強いそい、気をつけんならんね」そんな声かけがあちこちから聞こえるまちにしていきましょう。


Information
「レッド団長」をよろしくお願い致します!」

「レッド団長」はこども消防隊が考えたデザインの中から採用した糸魚川市消防団の新たなマスコットキャラクターです。


消防団員募集

年齢も仕事も様々な人たちが「自分たちのまちは自分たちで守る!」という気持ちで活動しています。一人でも多くの地域の守り人を募集しています!(18歳から入団可能)
【問合先】糸魚川市消防本部 消防防災課 庶務係
TEL025-552-2311 E-mail fd@city.itoigawa.lg.jp

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