HOPE糸魚川 - 糸魚川市駅北大火復興情報サイト

復興レポート

インタビュー | 特集
キーパーソン・インタビュー4
「長岡技術科学大学 環境社会基盤工学 教授 中出 文平氏」
2021/12/22

 駅北大火から5年。糸魚川市の復旧・復興にご尽力いただいた方々から、「災害に強いまち」「にぎわいのあるまち」「住み続けられるまち」づくりに係る活動のあゆみと想いを伺います。

 今回は、復興に向け、都市計画やまちづくりでのポイントを重点的に助言してくださった中出先生にお話を伺いました。


プロフィール
長岡技術科学大学 環境社会基盤工学 教授 中出 文平(なかで ぶんぺい)氏

長岡技術科学大学 環境社会基盤工学 教授 中出 文平(なかで ぶんぺい)氏

1957年神奈川県生まれ。東京大学工学部都市工学科を卒業後、同大学院博士課程を修了。1989年、長岡技術科学大学の助教授に着任し、文部省在外研究員としてロンドン大学に勤務。2001年からは長岡技術科学大学の教授、2012年から2021年3月までは、同大学の副学長を務める。
2014年、日本都市計画学会における最も権威ある学会賞の、石川賞を受賞。
2019年、都市計画の決定・推進に関し顕著な功績があったとして、都市計画法・建築基準法制定100周年記念国土交通大臣表彰を受賞。

主な著書(共著)
・人口減少時代における土地利用計画(学芸出版社/2010)
・都市縮小時代の土地利用計画(学芸出版社/2017)
・都市計画の構造転換(鹿島出版会/2021)


糸魚川市との関わり

 当市が中出先生と関わるようになったのは、20年以上前のこと。1999年頃の北陸新幹線糸魚川駅周辺構想策定から始まり、2000年にはそれに伴う委員会の副委員長、さらに都市計画審議会では委員として携わっていただいています。市町合併後の2005年からは、都市計画審議会の副会長として従事していただき、大火発生後、駅北復興まちづくり計画検討委員会・評価委員会にも参画。当市の都市計画全般を長年にわたり牽引していただいています。
 都市計画の専門家、また新幹線開通以前から当市を見守ってきた立場として、駅北復興まちづくり計画の策定時には、「ハードの整備だけではなく、『まちをどう使いまわしていくか』といったソフトも重視することを念頭に置いていた」と、話す中出先生。「人が行き交う駅周辺を襲った大きな災害でしたが、北陸新幹線、自由通路といった交通結節点と連続する駅周辺地区の一体的なまちづくりの下地作りはできていた」と、回顧します。


ハードとソフトの両面を展開

駅北復興住宅交流スペースでコンサート開催(2019.9.7) 全国自治体職員有志のアマチュア音楽家による心温まる演奏を、居住者や市民の方々は楽しみました。

駅北復興住宅交流スペースでコンサート開催(2019.9.7) 全国自治体職員有志のアマチュア音楽家による心温まる演奏を、居住者や市民の方々は楽しみました。

 「駅北地区に戻りたいと思った方は戻れるように、また、より魅力的な価値を加えて、新たな人も参入しやすいようにすることを意識していた」と話す中出先生。「具体的に、雁木の再生に関しては、デザインや構造を市民に提示し景観を整えることで、本町通りに住んでいた方や事業者がまちに誇りを持てるようになれば、戻ってきやすいのではないか」という、ねらいを立てました。また、「駅北復興住宅に関しては、一般的な公営住宅は、市街地と隔離した空間にしてしまいがちだが、訪問診療所や交流スペースなどの機能も持たせることで、居住者以外の市民も利用できるようにしてはどうかと提案しました。」
 復興に向けた考え方を教わり、施設の建設や整備だけでなく、まちの景観や地域コミュニティを捉えたまちづくりを取り入れています。


人づくりへの発展

 検討委員会では副委員長、評価委員では委員長を務めた中出先生は、市民の方々の想いを最優先に考えてきました。「この5年間は市民の方々も活動的で、民間と行政とのパートナーシップもうまく築けていたのでは」と、振り返ります。市民の方々には、「今までの70%の力でいいからまちに気持ちを向けて、活動を続けて欲しい」とメッセージを送ります。
 続けて、「まちづくりは早くても20年。当事者たちだけではなく、想いにタスキを掛けながら、継承していく人を育てることも大切」と、念押しします。
 今、少子高齢化にどう立ち向かうかが全国共通の課題。そのような社会的状況を背景として、子どもを対象とした“まちづくり教育”について、「小・中学生にイベントで学びを与えるだけでなく、企画運営に参画し、つくる過程に関わってもらうことが有効」と、アイデアをいただきました。

「復興まちづくりに関する提言」を市長に提出(2017.6.28/ヒスイ王国館) 中出副委員長/米田市長/木村委員長/山下副委員長

「復興まちづくりに関する提言」を市長に提出(2017.6.28/ヒスイ王国館) 中出副委員長/米田市長/木村委員長/山下副委員長


郷土愛を育む

復興まちづくり計画評価委員会(2018.3.27/市役所)

復興まちづくり計画評価委員会(2018.3.27/市役所)

 ハードの整備が一段落し、「これからは、今ある資源を有効的に使って欲しい」と、話す中出先生。まちづくりを長期的な目で見た時に、次の5年間は駅北地区だけではなく、日本海から駅と市役所を抜けた美山公園までをひとつの軸として、「日常の動線の中にある、市内の伝統的な産業や、糸魚川の顔となる滞在資源をうまく活かして、子どもから大人までが安心して暮らせるというストーリーのある展望を見せて欲しい」と、期待します。
 いくつかある資源の中でも、糸魚川のヒスイには観光客を呼び込める要素が大いにあるそう。「糸魚川のヒスイは県内で一番だと言えるだけでなく、国内で見ても質が良いので、海外からの観光客も見込める。昔からの歴史も面白いし、誰もが分かりやすくて自慢できる宝だ」と、提言します。
 「しかし、多くの市民がそれらの魅力を市外の方々に示すことができずに、自分のまちを『何もないところ』と言ってしまうと、新幹線駅もまた本来の効果を発揮できなくなってしまいます。まずは市民が郷土愛を持てるまちづくりを進めること。その結果、観光誘致につながるのが理想」と述べました。


市民が誇りを持てるまちづくりを

 2020年3月、評価委員会の最後には、「ここにいる少なくとも 4 人(関澤先生・江口部長・岡崎先生・中出先生)は応援団であり、なおかつ手厳しいコメンテーターだと思うので、頼りにしていただきたい」と、事務局を鼓舞してくださった中出先生。
 最後に、「復興まちづくり計画を策定するにあたって、行政はもちろん商工会議所や市民の皆さんが一丸となって、復興に取り組む姿勢が一番印象深かった。『糸魚川の玄関口である駅北地区を再生しよう』という皆さんの意識が共有されていたのが功を奏したと言えるでしょう。これからも、市民や行政が同じ方向に向かって、まちづくりを進めてもらいたい」と、熱い想いを託されました。


PDFダウンロード

復興情報誌HOPE 最終号

大火翌年の2017年12月より、お届けしてきた「復興情報誌HOPE」は、vol.96をもちまして最終号とさせていただきます。
4年間ありがとうございました。

バックナンバーはこちらからご覧いただけます。